松井一実(公式表記:松井一實)氏は、国家公務員として労働行政に長く携わった後、故郷の広島市で選挙政治へ踏み出した市長です。行政官としての経験と、被爆地の市長として担う平和発信が、長い市政の二つの大きな軸になってきました。
広島で過ごした少年期から京都での学生生活、労働省で担当した仕事、58歳で初めて選挙に挑むまでの歩みをたどると、松井氏がどのように中央行政から地方自治へ移っていったのかが見えてきます。
- 広島で育ち、大学卒業後は労働行政の官僚として国内外の実務を経験しました。
- 中央行政から故郷の選挙政治へ転じ、2011年に初めて広島市長に選ばれました。
- 被爆地からの平和発信と、都市機能・公共交通・地域コミュニティを組み直すまちづくりを進めてきました。
松井一実の生い立ち|牛田で育った少年期と、復興途上の広島
1953年1月8日、広島市東区牛田に生まれました。広島市立牛田小学校、牛田中学校を経て、広島市立基町高等学校へ進学しています。
戦後8年で生まれた世代です。本人は後年、18歳で進学のため広島を離れた頃にも、川沿いのバラックや十分に舗装されていない道路が残っていたと振り返っています。大学受験時には山陽新幹線もまだ広島まで開通していませんでした。
京都で暮らした後に改めて広島を見ると、まちの姿は大きく変わっていました。伝統的な町並みを持つ京都との違いも意識しながら、地元の人たちが復興と整備を積み上げてきたことを感じ、利用しやすく機能性の高い都市をつくりたいとの思いを持ったと語っています。
松井一実の学歴|京都大学で工学から法学へ
京都大学では、最初から法学を専攻していたわけではありません。当初は工学部に入り、3年生の時に法学部へ移りました。そこから司法試験か公務員試験を目指そうと考え、卒業までの限られた時間で法学の勉強に力を入れました。
学生生活では、大学近くの吉田山の裏側にあった私設の寮で暮らしました。家賃を少し安くしてもらうため、寮を設けていた大学教授の子どもの家庭教師もしていたといいます。
学生運動が盛んな時代でしたが、集団活動よりも一人で自由に取り組める油絵に熱中しました。勉強で疲れると絵を描き、自分だけの時間を確保していたそうです。後年まで続く油絵の趣味は、この学生時代に始まりました。
この中庸というのは学生時代に身についた思考方法かなと思っています。
出典:LIFULL HOME’S PRESS「広島型地域運営組織『ひろしまLMO』で地域を元気にする。広島市長・松井一實氏に聞く“二十歳のころ”」(2024年4月16日)
| 区分 | 学校名 | 学部・専攻 | 現在の偏差値・難易度 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 小学校 | 広島市立牛田小学校 | ― | ― | 広島市で学ぶ |
| 中学校 | 広島市立牛田中学校 | ― | ― | ― |
| 高校 | 広島市立基町高等学校 | ― | 60〜69(2026年度版) | 現行学科レンジ |
| 大学 | 京都大学 | 法学部 | 67.5(2027年度参考) | 卒業 |
※偏差値・難易度は松井氏の在学当時ではなく現在の目安です。基町高校は2026年度版、京都大学法学部は現在の入試難易度を参考値として掲載しています。
松井一実の経歴|労働省で積んだ雇用・国際労働行政の経験
1976年3月に京都大学法学部を卒業し、同年4月に労働省へ入りました。その後の官僚生活では、雇用政策だけにとどまらず、女性労働、高齢者雇用、国際労働、労使関係へと担当領域を広げていきます。
1989年には在英国日本大使館一等書記官となり、海外勤務を経験しました。帰国後は1993年に婦人局婦人労働課長、1994年には職業安定局高齢・障害者対策部高齢者雇用対策課長を務めています。
厚生労働省発足後は、2002年に大臣官房総務課長、2003年に労働基準局勤労者生活部長へ進みました。2006年には大臣官房総括審議官として国際分野を担当し、ILO理事の政府代表も務めました。
そして、2008年に中央労働委員会事務局長へ就任します。労働省入省から30年以上にわたり、中央省庁と外交、国際機関、労使関係の行政実務に携わりました。
8歳で広島市長選へ――官僚から選挙政治に転じる広島市政が大きく動いたのは2011年です。3期12年を務めた秋葉忠利市長が退任を表明し、4月の市長選は新人6人による争いとなりました。
松井氏にとっては初めての選挙でした。市議会との協調を掲げて選挙戦を進め、2011年4月の広島市長選で初当選。中央行政を担ってきた官僚から、故郷の住民に直接選ばれる首長へ立場を変えました。
内政は任せんさいということですよ
出典:中国新聞ヒロシマ平和メディアセンター「激動2011 中国地方から <2> 広島市長交代」(2011年12月19日)
就任後は、2020年夏季五輪招致の検討を中止し、旧広島市民球場跡地の利用計画を見直しました。広島西飛行場の廃止・ヘリポート化を受け入れるなど、前市政から継承する案件について相次いで判断を示しています。
長期市政の中で向き合った豪雨災害とG7広島サミット
2014年8月豪雨と災害の教訓
1期目の2014年8月20日、広島市では安佐南区・安佐北区を中心に大規模な土石流や崖崩れが発生しました。深夜から未明にかけて住宅地が被災し、多くの人命と住宅が失われる災害となりました。
平成26年8月豪雨による土砂災害は、その後の市の防災政策にも長く残る出来事となります。広島市は災害の教訓と知識を伝え、防災・減災の学習や地域の防災活動につなげるため、安佐南区八木に広島市豪雨災害伝承館を設ける制度を整備しました。
2023年、世界の首脳を迎えたG7広島サミット
2023年5月にはG7広島サミットが開催されました。広島市は開催地の自治体として県と連携し、公共インフラや施設の整備、警備・消防・保健医療などの受入体制を整える一方、平和と広島の魅力の発信、若者の参画にも取り組みました。
開催前には長崎市長とともにG7各国首脳へ要請を行い、広島だけでなく長崎への訪問も呼び掛けました。被爆地で開かれる首脳会議で核兵器を人類の存続に関わる問題として議論し、「核兵器のない世界」への決意を発信することを求めています。
度の市長選を経て全国の市長を代表する立場へ初当選後、2015年、2019年、2023年の広島市長選でも当選し、市長として4期目に入りました。それぞれの得票や候補者数は選挙歴データで確認できますが、市政を継続する中で活動範囲は全国の自治体へ広がっていきます。
2024年6月12日、第31代全国市長会会長に選出されました。人口減少、地方分権、防災・減災、地域経済など各都市が抱える課題について、市区長の意見をまとめ国へ届ける立場です。
2026年6月にも全国市長会会長を続けることとなりました。広島市という一つの政令指定都市の運営に加え、全国の基礎自治体に共通する課題を扱う役割を担っています。
平和行政と都市運営で重視してきた政策
核兵器廃絶と平和首長会議
被爆地の市長として、核兵器廃絶は継続して扱ってきた政策分野です。広島市長が会長を務める平和首長会議を通じ、各国政府だけでなく世界の自治体や市民社会との連携を進めています。
2026年5月、第11回NPT再検討会議が成果文書を採択できずに閉会すると、世界約8,600の平和首長会議加盟都市と連携して核兵器禁止条約の普遍化を働き掛け、若い世代の国境を越えた交流や被爆体験の継承を強化する方針を示しました。
核兵器廃絶に向けた国際世論の醸成に取り組んでいきます。
出典:広島市「第11回NPT再検討会議の結果に対する市長コメント」(2026年5月23日)
芸術や文化から平和を共有する「平和文化」
広島市は、戦争や核兵器について訴えるだけでなく、文化・芸術やスポーツ、人と人との交流を通して平和を日常へ広げる「平和文化」の振興にも取り組んでいます。2021年度からは毎年11月を「平和文化月間」とし、近隣市町にも活動を広げてきました。
音楽や文化は敷居が低く、喜びや楽しさと一緒に平和の尊さを伝えられます
出典:広島市「新春対談『平和文化と共に進化する広島』」(2026年1月1日)
広島駅と紙屋町・八丁堀を結ぶ都心づくり
都市政策では、広島駅周辺を東の核、紙屋町・八丁堀地区を西の核として都市機能を高め、両者を結ぶ「楕円形の都心づくり」を進めてきました。基町相生通地区の再開発などでは、業務、宿泊、交流などの機能を都心へ集積する計画が進められています。
公共交通については、鉄道やバスを単なる事業者間のサービス競争だけに任せず、道路と同じような社会インフラとして持続させる考えを示しています。市と交通事業者が管理・運用を調整し、利用者の利便性を重視する方向です。
「200万人広島都市圏」で近隣自治体と連携
人口減少への対応では、広島市だけが人口や機能を囲い込むのではなく、周辺自治体と人・物・資金・情報を循環させる広域連携を進めました。連携中枢都市圏制度を使い、「200万人広島都市圏」の形成とローカル経済圏の構築を掲げています。
「競争」よりも「協調」を重視する政策へと発想を転換する必要がある
出典:全国市長会「第31代全国市長会 会長 松井一實(広島市長)就任挨拶」(2024年7月8日)
ひろしまLMOで地域の運営主体をつくる
より身近な地域政策として進めているのが「ひろしまLMO」です。町内会・自治会をはじめ地域で活動してきた複数の団体が、小学校区を基本に話し合い、一つの地域運営組織として活動する仕組みです。
地域活動を担う人の高齢化が進む中、市は認定したLMOに活動拠点の維持管理や地域課題への事業費などを支援しています。松井氏は2024年のインタビューで、運営助成金を年間合計上限600万円と説明し、市内全域への展開を目指す考えを示しました。
こども・若者・子育て政策を部局横断で進める
2026年度の市役所組織では、「こども・若者と子育てに優しいまち“ひろしま”」に向けた体制を強化しました。福祉、保健、教育、まちづくりなどに分かれていた施策を総合的に進めるため、「広島市こども・若者・子育て政策推進本部」の事務局機能を整えています。
市長自身が推進本部を率い、行政分野をまたいだ政策の企画と実施を進める形です。子育て支援を一つの部局だけの仕事にせず、若い世代が将来に希望を持てる生活環境づくりとして扱っています。
松井一実氏をめぐる評価と論点
新規採用職員研修での教育勅語引用
議論を呼んだのが、新規採用職員に対する市長研修です。松井氏は就任翌年から、自身が職員へ公務員としての仕事への向き合い方を話す研修の資料で教育勅語の一部を扱ってきました。
広島弁護士会は2024年2月、教育勅語を職員研修資料で引用することに反対する会長声明を公表し、引用をやめるよう求めました。市長側は、歴史的資料として扱うことや、そこから職員の仕事に関する考え方を伝えることに問題はないとの立場を示していました。
2026年3月、松井氏は15年間にわたって職員へ直接話してきたことから、自身の考えは組織内に十分伝わったとして、新年度から市長自身による直接の講話を終えると説明しました。一方、資料の使用自体を問題視する考えには転じておらず、自身の考え方は変わっていないとも述べています。
| 年月日 | 選挙 | 選挙区・地域 | 所属 | 結果 | 得票・順位 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2011年 4月10日 | 広島市長選挙 新人6人が立候補 | 広島市 | 無所属 | 当選 | 165,481票 1位 |
| 2015年 4月12日 | 広島市長選挙 候補者5人 | 広島市 | 無所属 | 当選 | 275,773票 1位 |
| 2019年 4月7日 | 広島市長選挙 候補者3人 | 広島市 | 無所属 | 当選 | 295,038票 1位 |
| 2023年 4月9日 | 広島市長選挙 候補者3人 | 広島市 | 無所属 | 当選 | 258,336票 1位 |
動画で見る松井一実氏の平和宣言
松井一実氏の記者会見をテーマ別に見る
記事本文で扱ったテーマを、本人の記者会見まで深掘りできます。まずは代表的な発言を表示し、関連発言があるテーマだけ追加で確認できます。
核兵器廃絶と国際世論
「核兵器廃絶に向けた国際世論の醸成に取り組んでいきます」
NPT再検討プロセスを踏まえ、平和首長会議などを通じて核兵器廃絶を求める国際世論を広げる考えを示した。
子ども・子育て・若者政策
「市としてできるかぎりのことをやっていこうという決意表明」
子育て家庭や若者への支援を市政の重要課題として位置付け、令和8年度予算で市として可能な施策を積極的に進める姿勢を示した。
人口減少と大都市制度
「人口減少が進んでいる現在の我が国における喫緊の課題」
人口減少下で行政機能と成長力を維持する観点から、国・地方の権限配分や大都市制度の在り方を検討する必要性を述べた。
※ 内容の要点は公式一次情報をもとに整理しています。正確な文脈・全文は各リンク先の公式資料から確認できます。
松井一実氏の現在情報
2026年6月の広島市議会で、次期広島市長選挙へ出馬する意向を表明しました。「世界に誇れる『まち』づくり」を集大成し、次世代へつなげる考えを示しています。
- 氏名、生年月日、出身地、学歴、主要官僚歴、市長就任・再任歴を確認
- 学歴、官僚歴、市長歴、本人公式サイトを確認
- G7広島サミットの受入準備、平和発信、広島の魅力発信、若者参画を確認
- 全国市長会会長就任、地方分権、広域都市圏、公共交通政策に関する考えを確認
- 核兵器廃絶、核兵器禁止条約、平和首長会議、若者交流、被爆体験継承に関する方針を確認
- 2026年度重点政策、こども・若者・子育て政策の体制、職員研修に関する市長説明を確認
- 2026年6月の次期広島市長選挙への出馬意向を確認
- 2023年広島市長選挙の得票数、順位、当選結果を確認
- 学生時代、工学部から法学部への変更、下宿生活、油絵、若い頃の広島の記憶を確認
- 2011年市長選の背景、初当選時の発言、就任直後の市政判断を確認
この記事の更新履歴
- 2026年10月2日 学歴後の最初の職歴・政界入りを経歴H2へ再配置し、後続の経歴項目を人物固有H3へ整理
- 2026年10月2日 経歴の続きと重複政策H2をH3へ整理し、高橋光男・岸本周平記事と同じ見出し階層へ統一
- 2026年10月2日 本文内の手動管理ショートコードと監査用の汎用H3を撤去し、WordPress側の自動表示と内容に即した見出し構造へ整理
- 2026年10月2日 主要見出しを「生い立ち・学歴・経歴」の3本柱へ統一し、既存本文を維持したまま検索意図と読みやすさを整理
- 2026年10月2日 本文の経歴上重要な年月日を赤文字で補強し、重要箇所の視認性を改善
- 2026年10月2日 本文の重要な年月・当選・就任・退任などを赤文字で強調し、重要箇所の視認性を改善
- 2026年9月28日 自治体公式の市長記者会見・施政方針等を一次情報としてテーマ別に確認し、一次情報深掘りセクションを追加・更新。
- 2026年9月11日 記事を新規作成。現況情報を確認




















